名古屋簡易裁判所 昭和62年(ハ)2386号 判決 1988年9月20日
原告
破産者株式会社ジャパンリース破産管財人
野島達雄
右常置代理人弁護士
太田勇
同
小島隆治
同
今村憲治
同
中根常彦
右訴訟代理人弁護士
中村弘
被告
凸版印刷株式会社
右代表者代表取締役
鈴木和夫
右訴訟代理人弁護士
上野芳朗
主文
一 被告は、原告に対し、金四七万五四五〇円及びこれに対する昭和六二年一一月一九日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
四 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金四八万九〇七五円及びこれに対する昭和六二年一一月一九日から支払ずみまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 訴外株式会社ジャパンリース(以下「ジャパンリース」という。)は、本店を名古屋市北区上飯田西町二丁目二一番地の一に置いて主に自動車のリースを業としていたが、昭和六〇年一二月五日、名古屋地方裁判所において破産宣告を受け(同庁昭和六〇年(フ)第五九二号事件)、原告が破産管財人に選任された。
2 ジャパンリースは、被告との間で、昭和六〇年五月一〇日付契約書に基づく次の約定により、別紙一覧表①記載の自動車を同表②記載の期間、同表③記載のリース料でリースする旨の契約(以下「リース契約」という。)を締結し、被告に対し同自動車をリースしてきた。(一)被告がその都合によりリース契約を一方的に解約する場合は、未経過リース料の半額をジャパンリースに支払う。(二)遅延損害金は年一五パーセントとする。
3 被告は、原告に対し、別紙一覧表④記載の日の受付の内容証明郵便によりリース契約を解約する旨の意思表示を行い、原告はその翌日この書面を受領した。
4 右リース契約の解約は、被告がその都合により一方的に行ったものであるが、未経過リース期間を原告が解約通知書を受領した日の翌日から起算すると別紙一覧表⑤記載の期間となり未経過リース料は同表⑥記載の金額(一か月を三〇日として日割計算)となるから、被告は前記2項(一)の約定により、その半額である同表⑦記載の金額の損害賠償義務を原告に対して負担することとなった。
5 その後、原告は被告からリース契約物件の自動車の引渡を受けたが、その評価額は別紙一覧表⑧記載の金額であったので、原告はこれを被告に対する損害賠償請求権の元本に充当した。その結果、原告の被告に対する損害賠償請求額は同表⑨記載の金額になった。
よって、原告は被告に対し、リース契約に基づき右損害賠償残金及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六二年一一月一九日から支払ずみまで約定利率年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因1ないし3項の事実は認める。
2 同4項は争う。
リース契約約款には請求原因2項(一)記載の規定は存するが、その約定はジャパンリースの企業継続を前提とするものであって、同会社が倒産してメインテナンスサービスができない状態に陥ってもなお被告の解約により違約金を支払わねばならないとする趣旨ではない。
3 同5項は、原告が被告から自動車の引渡を受けた事実を認め、その余は争う。
三 抗弁
(履行不能による契約解除、弁済)
1 被告は、ジャパンリースが破産宣告を受け、同会社の被告に対するメインテナンスサービスの債務が履行できない状態に陥ったから原告主張の日にリース契約を解除する旨の意思表示をした。
右解除により、被告は原告に対し、昭和六一年一月二一日、本件リース物件の自動車を引渡した。
そして、同年五月八日、原告から、「破産会社に支払ったリース料の最終支払分の翌日を起算日とし、契約解除等のなされた車については引き取り日の前日までの日割計算」により算出した昭和六〇年一二月二一日から昭和六一年一月二〇日までのリース料金五万四五〇〇円、但し、メインテナンスサービスに要した費用があれば、これを差し引いた額を同年五月三一日までに支払うべく請求を受けたので、被告は、右リース料金五万四五〇〇円から立替保険料金一万一六一〇円を差し引いた金四万二八九〇円を支払った。
従って、被告の原告に対するリース契約についての債務は右弁済により消滅した。
(一部弁済)
2 仮に、原告主張の損害賠償請求権が認められるとしても、前記のとおり被告は原告に対して自動車の引渡日までのリース料金五万四五〇〇円を支払っている(立替保険料は原告の負担すべきもの)ので、請求金額から控除さるべきである。
四 抗弁に対する答弁
抗弁事実中、メインテナンスの債務履行ができない状態になったとの事実及び本件損害賠償金の全部又は一部を弁済したとの事実は、いずれも否認する。
(原告の主張)
被告の抗弁主張は以下に述べる事由により失当である。
1 本件リース契約は、金融的性格を内容とした、所謂「ファイナンス・リース契約」であって、これに自動車のメインテナンス契約が付加されたものである。このため、本件契約は、中途解約の場合、リース会社側に生ずる資金等未回収の損害について、解約以降リース会社のメインテナンスが必要でなくなることも考慮し、未経過リース料の二分の一をもって損害賠償金額とする旨の特約(約款第4条②)を設けていたのである。
本訴請求の損害賠償は、右のようなファイナンス・リース契約の合理的理由により設けられた損害賠償額の予定に基づくものであるから、本件リース契約を中途解約したことにより、被告が原告に対し未経過リース料の半額の損害賠償債務を負担したことは明らかであり、ジャパンリースの破産宣告及びそのメインテナンスサービスができなくなったことは右約定の適用を排除する事由にはならない。
2 被告が支払った金額は、被告自らが主張する如く、本件自動車を引渡日の昭和六一年一月二〇日まで使用収益していたことに対するリース料として支払われたものである。
従って、本訴請求の前記特約に基づく解約日以降の未経過リース料の半額相当の損害金とは全く別個のものである。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因について
1 請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
2 同4は、弁論の全趣旨によれば、
被告の解約申入が合意によらず被告側から一方的に原告に対してなされたものであること、また、被告の右解約通知書を原告が受領した日の翌日から起算した残リース期間が訴状別紙一覧表⑤の記載の「四〇月二一日」であること、同期間のリース料を一か月五万四五〇〇円で換算(一か月を三〇日として日割計算)すると同一覧表⑥記載の「二二一万八一五〇円」となること、その半額を前記約定による損害額として計算すると同一覧表⑦記載の「一一〇万九〇七五円」となることは、いずれもこれを認めることができる。
3 同5は、
本件リース物件の自動車を被告から原告に引渡があった事実は当事者間に争いがない。
また、成立に争いのない甲第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、
同自動車の引渡時における評価額が訴状別紙一覧表⑧記載の「六二万円」となり、原告が右評価額を同一覧表⑦記載の損害金に充当した結果原告の損害賠償請求額が同一覧表⑨記載の「四八万九〇七五円」となったこと、を認めることができる。
二抗弁について
1 抗弁1項は、<証拠>並びに弁論の全趣旨を総合すると、
(一)ジャパンリースと被告間において締結された本件リース契約は、自動車の用益と自動車取得資金の金融を基本的内容とした所謂「ファイナンス・リース契約」に該当し、これに当該自動車のメインテナンスをジャパンリースが負担する契約を付加したものであること、
(二)右ファイナンス・リース契約に基づき、被告は、ジャパンリースが被告のために買入れた購入資金に金融利益、契約費用を付加した金額相当額をリース料としてリース期間に亘り分割して支払い、かつ、その対価として同リース期間中自動車を自己のために使用収益するものとされていたこと、
(三)右のような経緯から本件リース契約では、中途解約の場合、解約以降のリース料が得られないことによってジャパンリースに生ずる前記物件購入資金等未回収の損害について、未経過リース料の半額をもって予定賠償額とする特約(約款第4条②)を設けていたこと、
が認められる。
右認定に照らせば、ジャパンリースの破産宣告及びそのメインテナンスサービスが得られなくなったことは、被告から本件リース契約を解除する理由にはなっても、右解除により前記損害額の特約に基づく損害賠償請求権を阻止する事由とはなり得ない。
よって、同抗弁は主張自体失当である。
2 抗弁2項につき検討すると、
弁論の全趣旨によれば、リース物件の自動車が、昭和六一年一月二一日、被告から原告に引渡されたこと、被告が昭和六一年一月二〇日までの約定リース料を立替保険料を控除して原告に支払ったこと、が認められる。
ところで、本訴請求は、被告の解約書面が原告に到達した昭和六一年一月五日(書面発送の翌日)を起算日とし、その残リース期間の「四〇月二一日」についてこれを未経過リース料となした上、約定損害金を計上しているものであるが、本件損害賠償の特約は前掲説示のとおり、中途解約でリース料を得られなくなったことによりジャパンリースに生ずる自動車購入資金等未回収の損害を補填することを目的とした約定と言うべきであるから、解約申入れ以降物件引渡しまでの期間についても規定リース料が支払われた場合は、右リース料支払期間につき重複して損害金を求め得る趣旨ではないと解すべきである。
即ち、解約後に物件を返還して返還時までのリース料を支払った被告は、返還時以降の未経過リース料の半額を損害賠償として支払うべきであり、これを再計算すれば、
引渡日(昭和六一年一月二一日)からの残存リース期間は「四〇月六日」、同期間のリース料は「二一九万〇九〇〇円」(端数は一か月を三〇日として日割計算)、その半額は「一〇九万五四五〇円」、これから返還自動車の評価額六二万円を控除した額は「四七万五四五〇円」となる。
この結果、本訴請求額四八万九〇七五円との差額は一万三六二五円となり、本抗弁は右差額の限度において理由があることに帰着する。
三結論
以上の事実によれば、本訴請求は、本件損害賠償金のうち金四七万五四五〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和六二年一一月一九日から支払ずみまで約定利率年一五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官冨瀬新一)
別紙
一覧表
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
自動車
リース期間
1か月
リース料
解約日
未経過
リース期間
未経過
リース料
損害金
自動車
評価額
請求
金額
名46
ロ
4114
昭和60年5月27日
から48月
54,500円
昭和61年1月4日
40月
21日
2,218,150円
1,109,075円
620,000円
489,075円